2021年3月10日水曜日

火曜日の詩「ベンダラ・ダリブデ・ハモデブララーメン」を公開しました

 毎週火曜日22時公開の「火曜日の詩」。先週は、千葉詩亭特別放送のため1週お休みとさせて頂きましたが、今週から再開です。19回目となる今回朗読したのは、新作「ベンダラ・ダリブデ・ハモデブララーメン」です。お時間のある折に、あるいは思い立った際に、またボーっとしている時のBGM代わりにお聴き頂ければ幸いです。


テキスト全文はこちらです。

「ベンダラ・ダリブデ・ハモデブララーメン」

凍える手でベンダラを割り、ダリブデをつかみ出す
ハモデブラを仕入れるために市場へ向かう
太陽はまだ上らず
地面には霜が降りている
軽トラックのエンジンがかかる音は、心臓に火がともる音のように感じる

ふと、このまま逃げたいと思う
誰も自分を知らないところへ
一軒のコンビニもない場所へ
見渡す限り、ひとつの時計もない国へ

ベンダラを鍋に放り込み、ダリブデを薄く切る
今日のハモデブラも、昨日と同じくらい素晴らしい
蛍光灯の光が包丁に反射し、厨房にアラベスク模様を描く
前にもこんな光景を見たことがある
あれは、まだ自分が精子だったとき
卵子めがけて走っていたときのことだ

俎板の上をたくさんの小さな望みが踊り出す
初めて飼った犬に会いたい
新しい黄色の包帯が欲しい
風呂場の壁にリンドウを描きたい
家族が欲しい
潰れた煙草の箱が欲しい
その中にUSBメモリをひとつ隠したい
しかし望みたちがうたう歌は、耳を澄ましたとたんに消えてしまう

ベンダラの煮える匂いが世界を彩る
ダリブデは光り輝いてまるでつめたい笑いのよう
ハモデブラは湯気の中で刻一刻と形を変える
朝だ、ここが朝だ
もうどこにも行けない、何も手に入れることはできない

本当はロックンロールラーメンがつくりたかった
本当はゴマフアザラシ・コレキタホイラーメンがつくりかたった
本当はドングリさんと自動車さんラーメンがつくりたかった
だが叫ばずにはいれらなくなるたびに
涙が枯れ果てれば枯れ果てるほど
ベンダラ・ダリブデ・ハモデブララーメンが魂を締めつけて絡みつく

おい、遅かったじゃないか、はやく丼とレンゲをとってくれ
太陽はもう上っちまったよ。

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※メイツ出版より、「外来生物のきもち」発売中です。全国書店にてご購入・ご注文頂けます。


ISBN 9784780423365
C2045
定価 本体1600円+税

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