立春も過ぎましたね。夕方になると、日が長くなってきたのを感じます。相変わらずしこしこと詩を書いています。「詩が書けませんでした」という新作を書きましたので、15週目の「火曜日の詩」にて朗読を公開いたしました。
テキスト全文はこちらです。
「詩が書けませんでした」
先生、宿題ができなくてごめんなさい
昨日、家に帰ってから頑張りましたが
とうとう詩は書けませんでした
ほんとうに一生懸命頑張ったんです
先生、なぜ頑張ったのに書けなかったかということですが
いろいろなことがあったからです
家に帰ってからノートを拡げると
まず、机の上にゴキブリが現れました
僕は雑誌を丸めて叩こうとしましたが、ゴキブリをよく見ると、四年生の時転校してしまったカオリちゃんに似ていました
それで僕はなんだかさびしくなってしまって
詩を書く気持ちではなくなってしまったんです
気を取り直してまた書こうと思いましたが
それから間もなくして、夕ごはんになりました
お母さんがカレーを作ってくれました
僕もお父さんも、カレーが大好きです
お父さんは、お母さんに
「お母さんの作るカレーは最高においしいよね」と言いました
すると、お母さんは少し困った顔で
「実はあたし、今まで黙ってたけどカレー嫌いなの
あなたたちが好きだって言うから作ってたけど、本当は匂いを嗅ぐだけでジンマシンが出そうなの」と言いました
僕もお父さんもなんだかどうしたらいいかわからなくなってしまって
黙々とカレーを食べました
ごはんのあと、僕は、また詩を書こうとしましたが
お母さんが十何年もカレーが嫌いなことを黙っていて
しかもそのカレーがとてもおいしかったことを考えると
詩を書く気持ちになれませんでした
それでも僕は気を取り直して詩を書こうとしたんです
先生もご存知のように、僕はいままで一度も宿題をしなかったことはありません
意地でも詩を書こうと思ったんです
頑張っているうちに、10時になりました
10時になると、お隣のタカハシさんがいつも必ずカラオケの練習をします
タカハシさんは声が大きくて歌がへたです
それなのに、10時から30分、必ず演歌を歌います
いつも、迷惑だ、やめてほしいと思っています
前は1時間やっていましたが、うちのお父さんが抗議して、それから30分になったのです
だけど、昨日、高橋さんの歌を聴いて僕は気づきました
前よりうまくなっていることに
僕はお酒を飲んだことや、女の人と遠くに逃げたことはありませんが
タカハシさんの歌を聴いていると
僕も大きくなったら、絶対小さな場末の酒場でお酒を飲んで
雨の降る日に女の人と遠くの町に逃げていくんだと思いました
体がとても熱くなったんです
そうしてタカハシさんのカラオケが終わると、なんだかとても疲れてしまって
もう寝よう、詩は朝早く起きて書けばいいと思いました
だけど、早起きできませんでした。
先生、宿題ができなくてごめんなさい
いままで、どんな宿題でも僕は必ずやってきましたが
とうとう、詩は書けませんでした。
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