スーツケース一つ持って(JYBは二つ持っていて、ついでに途中で一つ買い足して三つになっていたが)世界中を回るポエトリースラマーは、適応能力が非常に高い。日本にいる10日のうちに、JYBは自分で電車に乗り、ATMで金を下ろし、日本人も知らないような安い店を見つけて買い物をし、お疲れ様、と言って私にコンビニで肉まんをおごってくれるまでになっていた。耳が良く、一度聞いた日本語のフレーズはすぐに覚えてしまう。さすがだ。千葉の里山からフランス大使館まで、彼と一緒に過ごした時間は宝物だ。100円ショップとカレーとラーメンが大好きで、ユニクロで買ったシャツを子供みたいに喜んで身につけ、「XXL」のシールをつけたまま颯爽と歩き出して私の妻に後ろからはがされるJYBの姿を思い出すだけで気持ちが明るくなる。JYBはまた来日する気満々で、我々にはいくつか計画もあるけれども、それはまた別の機会に明らかにすることができるだろう。
11月6日のポエトリーリーディングオープンマイクSPIRITでは、そのJYBをゲストに迎えた。と言うか、そもそもそのために招聘したのだ。
そのパフォーマンスの強度と陽性の魅力は、ご来場の皆様にも確実に届いたのではないだろうか。私も一緒にJYBの詩の日本語訳を朗読したりしたが、「今からちょっと訳してくれないか」と言われたのは会場入りしてからだったりして、そういうイレギュラー極まる展開もパリのポエトリースラムW杯を思い出した。あの時も街中をうろうろしているだけでいろんな無茶振りをされたっけ。
来日以来彼とずっと一緒に過ごして、本当に純粋で繊細で優しい人であることを改めて感じた。しかしその底には、自らの辿ってきた人生と、そのルーツにまつわる様々な物語が流れており、深く沈殿した悲しみと怒りが存在していることが、ふとした瞬間や会話の端に顔をのぞかせる。そのパーソナリティが、物事を常に多面的・多角的に捉えるビジョンにも繋がっていると感じる。彼の詩をもっともっと訳してみたい。
オープンマイクには24名の方にご参加頂いた。登場順に、
もり
小林結
あしゅりん
ケイコ
元ヤマサキ深ふゆ
藤原游
梓ゆい
筒渕剛史
中野皓作
死紺亭柳竹
イシワタキミ
ジョーダン・スミス
村田活彦
マリア
ジュテーム北村
遠藤ヒツジ
晴居彗星
春井環二
rabbitfighter
阿部洋史
yae
長谷川浩輝
三木悠莉
道山れいん
という皆様。
今回も初参加の方が多かったが、それぞれが持ち寄る「詩」の静かな弾力が、何かに到達する瞬間の美しさがちりばめられていたと思う。オープニングはURAOCBが、ラストは私が「うなぎ」と「電気うなぎ」を朗読した。
次回SPIRITは12月4日、URAOCBセレクトのゲストはラッパーのもがくひと。お待ち申し上げております。
☆☆☆
そして、少しさかのぼって11月4日のポエトリースラムジャパン全国大会。
結論から言うと、優勝は三木悠莉さんで、私は決勝ラウンドで敗退した。今回をもって、ポエトリースラムジャパンから、出場スラマーとしては卒業する。関係の全ての方に心から感謝したい。
その上で、準決勝Aグループでの状況について、思ったことを書いておかなければならないと思う。これについては、私自身、お客様から色々な声を頂いたが、あくまで私一個人が感じたこと、そしてその後考えたことに沿って書きたいと思う。
まず端的にどういうことだったかというと、Aグループでは、1位抜けの三木悠莉さんと2位抜けの私だけが高得点で、他4人の詩人は、それぞれのジャッジがほとんど全員2~4点しかつけないという、極端な低得点であった。
正直言って、それは私が今まで海外で経験してきたポエトリースラムでは考えられない出来事だった。目を疑った。信じられなかった。
まず、ベルギーでもフランスでもイスラエルでも他の国々でも、ジャッジが7点以下の点をつけるということはほとんどない。8点以下をつけようものならだいたい会場からブーイングが起きる。2点とか3点なんてありえない数字である。また、10点満点も乱れ飛ぶ。それでもちゃんと優劣はつくし、総体的な点差が少ないから、1巡目と2巡目で逆転が起きることも多くなり、ゲームとしても面白い。今回みたいに、2巡目でジャッジ全員が満点を出しても逆転不可能なんていうことはまず起きない。
私には、どらごんまうすさんも八和詩さんもいっきょんさんもつきさんも、みなそんな低得点しか与えられないようなパフォーマンスだったとは全く思えなかった。むしろ素晴らしいものだった。ジャッジの真ん中3人の合計得点が一桁なんて、そんな話があるだろうか。
彼女たちのジャッジの点数を見たとき、最初に驚き、次に心の底から怒りと哀しみを覚えた。それは間違いなく、私が今まで10年間ポエトリーリーデングをしてきて、最も動揺した瞬間だった。自分の決勝進出が確定しても少しも嬉しくなかった。
決勝戦をボイコットしようと本気で思った。人間性の肯定、自らと異なる他者への尊敬がなければ、スラムはゲームとしてもエンターテイメントとしても機能しない。スラムが始まってまだ間もないこの国では、これは確かに起こり得ることではあるけれども、こんな極端な形で現出するとは・・・
確かに、どんな形であれ、ジャッジにはそれぞれの理由があってその点数をつけたのだし、その内心の自由に踏み込むことは誰にもできない。私がツイッターに攻撃的なことを連投してしまったのは醜い行為だったと思う。また、優勝した三木悠莉さんに対しても申し訳なかった。この場を借りてお詫びしたい(そもそも、仮に点数差がこんな形で現れなくても、今回の大会で最終的に優勝したのは彼女だったろう)。
しかし、私は、あの状況はポエトリースラムがポエトリースラムとして発展する上で見過ごすべき状況とは思えなかったし、これから多くのスラマー、また新しくやってきたお客様を迎え入れる上で、良いものではなかったと思っている。
お金を払って来場しているお客でもあるジャッジがすることに文句をつけるな、と言われるかもしれない。だが、根本的に我々スラマーもエントリー料を払っており、立場としては変らないし、仮に我々がギャラを貰う立場だったとしても、おかしいと思ったことはおかしいと言わねばならないと私は思う。それに、どんなジャンルでも、お金を払っているからと言ってやってはいけないことなどたくさんある。例えば野球では、味方が守備をしている時に応援団は鳴り物を鳴らしてはいけないし、八百屋さんではトマトを指でつぶしてはいけない。それらは、そのジャンルが健全に運営されていく上で大切な不文律である。
一方で、重ねて言うが、ジャッジに対して攻撃的になったことは謝罪したい。それは的外れであった。これは誰の責任でもない。ポエトリースラムでは、ポエトリースラムをポエトリースラムたらしめている理念がゆるやかに共有されることが何より必要で、それなしではゲームとしても競技としてもエンターテイメントとしても魅力的にはならないことを改めて感じている。その理念ということに関しては、PSJ代表の村田活彦氏のブログ記事を紹介することをお許し頂きたい。私の考えも氏に非常に近いものである。
私はポエトリースラムに、計り知れないほどの恩恵を受けてきた。今も受け続けている。その恩恵は有形無形に、どんどん大きくなる一方である。
今回の経験を経て、自分自身はどうすればいいのか、どうしていくのかを考え続けている。言いたいことを言いっぱなしにしてさよならするには、私はあまりにも多くのものをポエトリースラムから貰い過ぎている。
今年は東京大会が三つあったけれども、もしもできれば、来年は私がその一つを貰って、千葉大会を主催させて頂ければと思う。
何よりもスラマーが安心して全力を出し切れ、お客様が楽しめ、ステージと客席にリスペクトが相互に存在し、初めて訪れて下さった方が魅力的に感じて頂けるような大会。それを実現して、日本のポエトリースラムへの恩返しにしたい。今、そう思っている。私にはいくつかのアイディアがある。
真摯にPSJに取り組む、村田活彦代表はじめ、スタッフの皆様に対する敬意と感謝の念は変わることがない。現時点でも、PSJの司会と受付は間違いなく世界一だ。
優勝者の三木悠莉さんには心からおめでとうを言いたい。そして、12人のスラマー一人一人が私の中にその存在を深く残している。人としてこの世に生まれ、真剣に関わろうと思えるものがあるのは幸せなことだ。
☆☆☆
明日から、詩人の桑原滝弥さん、講談師の神田京子さんご夫婦とともに福島へ向かう。
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「夫婦幸福ライヴ in ふくしま2017」
▽出演
桑原滝弥(詩人)
神田京子(講談師)
▽ゲスト
大島健夫(詩人)
11/10(木)13:30~
伊達 飯館村・伊達東仮設住宅
11/11(土)11:00~
いわき ことほぎ庵 森へゆこう
11/11(土)15:00~
いわき グループホーム ことほぎ庵
11/12(日)14:00~
いわき 久之浜・大久ふれあい館
※全て入場無料。 施設/地域関係者以外で観覧を希望される方は、 事前に下記までお問い合わせください。
【お問い合わせ】
詩人類・桑原
TEL:090-8545-2708
takiyakuwahara@yahoo.co.jp
昨年、桑原さん、津軽三味線の星野通映さんと宮城県の山元町へ行かせて頂いた。それ以来の東北だ。
肚を決めて、旅に出る。
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