8月3日に千葉にやってきたデンマーク・ポエトリースラム王者Emil Nygardと、大学で生物学を学んでいるという友人Robin Huzell。我が家を皮切りに、仏教寺院、森の中の山小屋等色々なところに宿泊させつつ4日間、一緒に車で千葉を旅した。山に登り、伝統的な谷津田を歩き、中世城郭を見学するなどゆるゆると動き回っていた。
二人とも旅慣れており、常に主体的に動くが、かと言って思いやりに欠けるわけでもなく、明るくて闊達だがうるさいわけでもなく、政治から歴史に至るまで繰り出す質問も常にシャープで、一緒に旅をするには最高の人間性の持ち主だった。気心の知れたEmilは当然ながら、生物学を学ぶRobinともすっかり仲良くなった。寺院に泊まっている際には、外からウシガエルの声が聴こえたのをきっかけに、日本と欧州の外来生物を巡る諸問題について長時間話し合ったりもした。
異邦人とともに旅をすると、普段自分が見慣れた房総の事物も、また違った趣をもって目の前に現れる。おまけにずっと英語で喋っているので、なんとなく自分も海外にいるように気分になってくる。その間、いろいろなバックボーンを持つ私の知人たちと会っているが、EmilもRobinも常に誰とでも良好な関係を築いていた。もっとも、彼らのこれまでの四半世紀ほどの人生でたどった道のり、そしてその上で彼ら二人がどのようなことを重視して生きているかということを聞くにつけ、それも当然という気はした。
そして7日(月)は渋谷でポエトリーリーディングオープンマイクSPIRIT。Emilは金子みすずの『私と小鳥と鈴と』の日本語での朗読から始まり、英語とデンマーク語を駆使してその実力をきっちり示してみせた。いま、日本でポエトリー・スラム・ジャパンに出てくる人たちは、おそらく「パリに行きたい」とは思っていても、実際にパリでどんな人と戦うのかということについては、多分何も考えていない人が多いと思う。Emilの、フラットでありながらインサイトの深い視点、言語の異なる観客相手でも決して飽きさせないパフォーマンス能力は見ていて惚れ惚れする。フランスやイスラエルで見てきた彼の朗読を、渋谷のSPIRITでこうして見ることができたのは本当に嬉しくて感慨深いことだった。
この日は台風が接近中で、開場前には激しい雨も降った。それでも多くの方がいらっしゃって下さった。心から感謝したい。人生には様々なことが起こる。大きいことから小さいことまで、辛いこと、悲しいこと、苦しいこと、寂しいことの全てがそこにはある。あるいはまた、嬉しいこと、幸せなこともある。そしてそうした事象を前に自分自身と対話し、もう一度向かい合う時、詩は常にそこにある。
詩は最高だ。
EmilとRobinは富士山に向けて出発した。彼らがいなくなったら、夫婦ふたりだけの家は、こんなに狭いのになんだかがらんとしている。また今日から、新しい旅が始まる。
0 件のコメント:
コメントを投稿